クリニック通信

2015年9月17日咳、鼻水、熱は悪者?

こんにちは。すっかり秋ですね。早い秋の到来にサフィニアもトレニアも観念して花壇から店じまいを始めています。

秋風邪のシーズンがやって来ました。やたらと長引く咳や鼻水が特徴で、お熱が出ることも少なくありません。集団生活では治りかけては新しい風邪をもらってくるので、この時期の子供たちはいつまでも鼻が垂れっぱなしになります。お子さんが風邪をひくと親御さんは咳鼻水を止めなければ、熱を下げなければと心配してお薬を希望されて受診します。

さて、咳鼻熱は本当に悪者なのでしょうか?実はこれらの症状はばい菌退治に必要な大事な免疫反応なのです。のどや鼻の粘膜にばい菌がくっつくと、体内のお巡りさんである免疫が働き出します。まずは「所轄の交番細胞」が鼻や気道から粘液をたっぷり出して、ばい菌を外に押し流しそうとします。この鼻水には抗菌物質も含まれています。更に咳やくしゃみで溜まった痰や鼻水を思いっきり外に出そうとします。ほとんどのばい菌はこれで諦めてしまいます。それでも頑張って入りこみ、増えたばい菌達は調子づいて「大暴れしてやろうぜえっ!」と血気盛んです。それを憂慮した「免疫担当大臣」は更なる指令を下します。「体内感覚調整部長」に「風邪ひき警報」を発令させて、「大人しく安静を保つように」のメッセージを込めて、喉の痛みや体のだるさを感じさせます。そして、「体温調節管理課」には体温を上げるように命令します。ばい菌は住み心地の良い36度台だったのに「何だか暑くて住みにくくなったなあ」と思うようになり、繁殖する気が失せてきます。また、体温が上がると血管(道路)が拡張して血流(交通)が良くなったためです。血流に乗った「免疫機動隊」がばい菌軍団の制圧に向かいます。「免疫機動隊」は「白血球」や「抗体物質」などを代表とした荒事に強い精鋭集団です。現場では大乱闘、退治されたばい菌を取り込んだ「免疫機動隊」は痰や鼻水にくるまれて、「咳」や「くしゃみ」で外に放り出されていきます。放り出される数が多くなると黄色や緑に変わり少なくなると透明や白に戻っていきます。1週間ほどかかってばい菌退治があらかた済むと、「免疫担当大臣」は終息宣言を出して「体内感覚調整部」「体温調節管理課」「免疫機動隊」は「やれやれ、今回も大事にならずに済んで良かったね」と互いに労い合って引き揚げていきます。但し、「所轄の交番細胞」はまだまだ目を光らせていなければならないし、乱闘で荒れてしまった粘膜はあちこち細胞が壊れて穴だらけで、きちんと修理しないと新手のばい菌が入りやすくなっています。実直な縁の下の力持ち「後始末隊」は文句も言わずに黙々と作業を続けます。その修復作業で壊れた細胞や残ったばい菌を放り出すためにしばらくは鼻水や咳は続きます。これに結構時間がかかるのです。そして修復が済まないうちに何処かから、誰かから、新たなばい菌が入り込んできます。この繰り返し、免疫細胞たちはみんな「え~っ、またぁ?」「少しは休ませてくれないとデートも出来ないよ~!」と内心では思いつつ、でも頑張り始めます。そうして、年齢と共に経験値が増え、底力が増して、だんだんとばい菌の侵入がしづらい丈夫な体になって行くのです。

咳も鼻も熱もみんなばい菌退治に必要なものばかりです。咳や鼻水を止めすぎると、ばい菌が出て行きづらくなります。熱を無理に下げることは「免疫部隊」の活躍に水を差してしまうかもしれません。だから、風邪薬や解熱剤は辛い間だけ使いましょう。元気があって辛くないなら必要ありません。その代り免疫細胞たちの働きを助けてあげるために、熱過ぎないお風呂で加湿してこまめに水分補給をして、鼻水や痰をゆるくして外に出やすいようにしましょう。鼻をかませて、吸ってあげて鼻やのどの奥に溜まらないようにしましょう。そして、「風邪ひき警報」にきちんと従って大人しく安静を保ち、熱が下がってすぐの外出は控えましょう。新手のばい菌がくっつかないように、お子さんにあげないように、家族全員がうがいと手洗いをしっかりしましょう。全て当たり前のことですが、お医者さんに何度もかかって延々とお薬を飲むよりも遥かに有効な風邪対策になるはずですよ。

最後に注意点、「免疫部隊」が苦戦している時の症状を見逃さないことです。発熱が3~4日しても下がらない時、咳で一晩中眠れず「ヒ~ヒ~」した音が胸から聞こえて苦しがっている時(喉元が息をする度にぺこぺこしてきます)です。この時だけは必ず病院を受診しましょう。また、咳鼻汁が長いからと言ってすぐにアレルギーに結び付ける必要はありませんが、深夜から明け方に「ヒ~ヒ~」して苦しさを伴う咳や、痒みを伴う水みたいに流れる鼻水が数週間出続ける場合は受診しましょうね。

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