クリニック通信
2015年12月9日おたふくかぜにご用心
こんにちは。今日は日差しがやわらかい良い天気ですね。休診なのに溜まった仕事をするために外に出られないのがちょっと残念です。
この1か月おたふくかぜが流行しています。おたふくかぜは正式には「流行性耳下腺炎」と言って、耳のすぐ下からほんの少し前よりにある耳下腺に痛みと腫れを生じるのが特徴です。最初は片方、2-3日してもう片方腫れて5-7日程で退くのが特徴です。耳下腺と言うのは唾液腺=つばを作る器官で、耳下腺以外に顎の両脇にある顎下腺が腫れることもあります。食事で噛む行為が多いと痛みが増す傾向にあるので、歯ごたえの少ないものを与えましょう。発熱も症状の1つですが、熱が出ないことも腫れが軽いことも、全く症状が出ないことも(不顕性感染)あります。
おたふくかぜは「ムンプスウイルス」による感染症で、唾液などの分泌物からうつり、2-3週間の潜伏期間をおいて発症します。学校保健法では耳下腺腫脹後5日間+全身状態良好になるまでは出席停止が必要とされています。
大人しくしていれば自然に治る病気ですが、厄介なことがあります。合併症が多いことです。一番多いのがウイルス性髄膜炎で、報告によって頻度にばらつきがありますが30-50人に1人くらい合併します。発熱と強くてしつこい頭痛、嘔吐が1週間ほど続くのが特徴です。命にかかわることは滅多になく、自然に治りますが辛い症状です。救急病院勤務時代はおたふくかぜの流行時期には何人も入院がありました。診断するには髄液検査が必要ですが、これがまた痛い検査です。ごく稀に脳炎の合併もあるので、痙攣や意識障害を伴う場合は要注意です。難聴が後遺症に残ることもあります。これは残念ながら治ることがありません。1万人に1人と言われていましたが、もっと多いようで千人に1人くらい合併するようです。思春期を過ぎると精巣炎や卵巣炎などの合併症もあり、その結果不妊症の原因になることもあります。稀ながら膵炎を合併します。おへその周りが時々痛むのは、体調が落ちて胃腸の動きが弱ったためなので心配ありませんが、上腹部=胃の辺りを激烈に痛がり、いつまでも治まらない場合は救急病院を受診する必要があります。
実はおたふくかぜ、名前は可愛らしいのですが、このように侮れない病気なのです。この病気はワクチンで予防出来るため多くの国が定期接種をしていますが、日本はまだ任意接種でお金がかかることもあり、接種率はまだ高くありません。ワクチンは生ワクチンで1回で80%以上免疫が付きますが、途中で効果が切れて来るので2回接種が必要です。1回目から2-4年(最短4週間以上)空けて再接種することで大人になっても免疫が残ります。今年の流行状況を見ていると、1回接種でもかかる方がいます。合併症発生率は大幅に下がりますが、1回では安心できません。特に大人になると1回だけではワクチン効果が切れているので、辛い思いをすることになります。出来れば1歳で受けるのが望ましいのですが、何歳になっても受けられます。また、ムンプスウイルス以外でも耳下腺に炎症を起こすことがあります(反復性耳下腺炎)。仮におたふくかぜに罹ったことのある方がワクチンを接種しても問題はないので、おたふくかぜだったか良く分からない場合には接種しておいた方が無難です。生ワクチンなので潜伏期間後に耳下腺が少し腫れることが稀にあり、髄膜炎の可能性も数千人に1人と言われていますが、実際はそれより遥かに少ない確率のようです。まだ接種していない方は是非受けることをお勧めしますね。
http://www.know-vpd.jp/vpdlist/otafuku.htm (KNOW VPD! VPDを知ってこどもを守ろうが参考になります)
しもぶくれてますがおたふくではありません。失礼ね!