クリニック通信

2016年12月23日マイコプラズマ砲、発射!

こんにちは。今日は風は強いものの暖かい日でしたね。久しぶりに仕事のない休日、私の部屋より遥かに広い健兎の部屋の大掃除をしました。「何で体重が1kgしかないのにこんなに散らかせるんだろう、、」とボヤキながら半日かけてやっときれいにした部屋は、健兎にとっては自分の匂いが消えたことが不満なようで、早速トイレ以外にウンチをばらまいています。

今年の年末はえらいことになりました。いつもなら1月後半から本格的に流行するはずのインフルエンザがA/B両方とも流行のピークを迎え、ゲロゲロ胃腸炎のノロウイルスが株の変異でより罹りやすくなり、加えてマイコプラズマが4年ぶりに大流行しています。インフルエンザ、ノロ、マイコプラズマ、3大怪獣大決戦です。何処のクリニックも大忙し、毎日ヘニョヘニョです。年末に2日間参加する予定の救急病院の救急外来当直を考えると憂鬱になります。

さて、今回流行しているインフルエンザ、ノロについては以前にクリニック通信でご紹介しました(2012年1月30日「インフルエンザを心配される方へ」、2012年12月2日「ノロウイルスにご注意を」)。では、マイコプラズマって何でしょう?何か名前だけ聞くとSFに出てくる宇宙戦艦の武器の様にも思えます。「エネルギー充填120%、マイコプラズマ砲発射!」何か強そうです。マイコプラズマの特徴は端的に表すと「①幼稚園以降の年長児から成人が罹りやすい。」「②咳が2-3週間に渡って増強する(亜急性感染症)」「③咳が激しい割に鼻水が少ない。」になります。

秋冬はライノウイルスなどの咳鼻感染症が多く、冷たく乾燥した空気が喉や鼻の粘膜を荒らすために、もともと咳が長引きやすい季節です。一つ罹ると治りきらないうちに次に罹るため、いつまでも治らない様な感じがします。ただ、よく観察すると、普通の風邪では最初の1週間は咳が強くなるけれど、1週を過ぎる頃からゆっくりと落ち着いてきます。そして次に罹るとまた咳が強くなるので、波のように悪くなったり良くなっていることが分かります。乳幼児ではまだ鼻がうまくかめず、鼻の穴が小さくて詰まりやすいので、鼻水が喉の奥に垂れ込んで咳込みます。これは後鼻漏症候群と言って咳が長引く一番の原因ですが、鼻水がつきものです。喘息ならヒーヒーした音が胸から聞こえて息が苦しくなります。マイコプラズマの場合は1週を過ぎても咳は更に激しくなり、下気道だけ荒らすために鼻水は殆ど出ません。聴診しても変な音が聞こえることは少なく、呼吸時に胸痛を伴うことはありますが、苦しくなることは滅多にありません。レントゲンでは淡いスリガラス様の肺炎像が見つかることもあります。熱が長引く人もいれば全く出ない人もいます。上記した①②③を満たす場合はマイコプラズマを疑う必要があります。今までは血液検査(抗体測定法)しか調べる方法がなかったのですが、数か月以上前に罹った場合でも陽性になってしまうため、確定診断が困難でした。最近は喉の奥を綿棒で拭うことで直接ばい菌を検出する抗原測定法が開発されたため、診断精度が上がりました。ただ、すぐに結果のわかる迅速検査法では検出率が低いのが難点です。検査センターに依頼する「LAMP法」は検出率も診断精度も高いのですが、結果には数日を要します。やはり、臨床経過や症状から総合的に判断する必要があります。

稀に起こる特殊な合併症を除いて予後は良好です。肺炎だから重症とは限らず、点滴よりも内服する抗生剤の方が効き目が良く、きちんと飲んで安静を保てば治ります。飲まなかったとしても、自分の免疫で最終的には軽快します。ただ。抗生剤なら何でも良いという訳ではありません。第1選択としては「マクロライド系抗生剤」が推奨されます。ただ、抗生剤の乱用によって最近、マクロライド系抗生剤が効きにくいマイコプラズマも出てきました。内服数日で症状が軽快しない場合は他の抗生剤に変更する必要がありますが、年齢によって適切なものを選ぶ必要があります。マクロライドでもきちんとした量をしっかり飲めば半数以上の方は良くなります。問題はこの抗生剤、若干苦いのです。最初は甘いのですが、口の中に薬が残り、薬を覆っている甘いコーティングが剝がれてくると苦みが出てきます。飲んでしばらくしてから苦くて吐いてしまうお子さんも少なくありません。飲ませる時の注意は「柑橘系のジュースに混ぜないこと(余計苦くなる)」、「他の薬と一緒に飲ませないこと(全部吐いてしまう)」です。アイスなどの甘みの強い乳製品がお勧めで、お薬を作っているメーカーのお薦めは「ストロベリーアイス」だそうです。飲んだ後は口の中に薬が残らないように、水を飲むか口の中をすすぎまししょう。「良薬は口に苦し」。どんな良いお薬も体に入らないことには効果が期待できません。「シロップがいい」「甘いのがいい」で選び過ぎていませんか?薬剤師さんに相談すると色んな飲ませ方を教えてくれます。お薬をうまく飲めるように、お子さんに飲ませやすい方法を試してみてくださいね。

潜伏期間は2-3週です。マイコプラズマの患者さんと接触して2日後に咳が出たとしても、それはマイコプラズマではありません。ご家族、特に親御さんが2週間以上咳込んでいる場合はちょっと注意が必要です。空気感染や接触感染はなく、マイコプラズマの患者さんが咳こんだ時の飛まつ物を直接吸い込んでしまった場合に感染する可能性が出てきます。マイコプラズマに限らずに咳が出てきたらマスクをする「咳エチケット」、人にうつさないようにする配慮が一番大事な予防ですよ。

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