クリニック通信
2019年1月20日インフルエンザのおさらい
こんにちは。寒い日が続きますね。庭のビオラは頑張って笑顔を振りまいていますが、健兎は寒がってベランダに遊びに行かなくなりました。飼い主も同じです。
予想より早くインフルエンザの流行が本格化してしまいました。例年は年末に少し始まるものの、お正月中に隔離されて鎮静化し、学校が始まって2週間ほどで次第に増えてくるのですが、今年は年明けすぐに急激に発症者が増加して、検査の陽性率が50%を超えました。年末は怒涛のインフルエンザワクチン接種でヘロヘロだったので、年明けはしばらくのんびりできると高を括っていただけに、ヘロヘロ倍増です。インフルエンザについては過去にクリニック通信でお話しましたが(2012年1月「インフルエンザを心配される方へ」2018年2月「遅ればせながらインフルエンザのお話」)、今回はそのおさらいです。
インフルエンザにはA型とB型があり、冬の終わりまで時期をずらしながら流行を繰り返します。今はA型がメインです。高熱ではないけれど抗ウイルス薬を使用してもダラダラと続くBに対し、Aは40℃台に一気に上がりますが、薬の効き目は比較的良いように感じます。A型にはけいれんなどの神経系合併症を起こしやすいH3N2と、呼吸器系に影響を与えやすいH1N1があります。今はH1N1が多いのか咳の強い方が多いようです。
インフルエンザは高熱が4~5日続きます。抗インフルエンザ薬を使用すると1~2日早めに下がりますが、水分補給と安静だけでも自然に治ります。熱の上がり際には悪寒や嘔気、頭痛、腹痛、関節痛などが出現してとても辛そうですが、上がりきると少し楽になってきます。解熱剤はアセトアミノフェン(アルピニ・アンヒバ・カロナールなど)やイブプロフェンは安全に使用できます。子ども用の市販薬は殆どがアセトアミノフェンです。鎮痛効果もあります。一方、発熱はウイルスを退治する大事な免疫反応です。辛い時や眠れない時は解熱剤を使用しても構いませんが、「何℃になったら」と数字で決めてしまうと、使い過ぎてウイルス退治を邪魔してしまいます。頭痛がひどければ微熱でも使って良い代わりに、機嫌よく遊んでいたり、良く眠っているのに39℃だからと起こして使う必要はありません。また、「解熱剤を使っても下がらない!」と心配する必要もありません。熱は味方です。熱は上がり際が辛いもの。平熱まで下がると、上がる時に辛くなります。少しだけ下がって楽になるのならそれで充分です。(2011年9月「発熱時の注意」2015年9月「咳鼻熱は悪者?」)
咳鼻水は最初は軽く、むしろ熱が下がってから強くなる傾向があります。かぜ薬は咳鼻をほんの少し楽にするだけのお薬、辛くないのなら無理に飲む必要はありません。食欲は高熱になれば当然落ちるもの。無理に食べさせても消化機能が落ちているので、吐いたりお腹を痛がります。食べれなくても栄養の蓄積があります。数日なら1~2口でも大丈夫。水分も一気にたくさん飲む必要はありませんが、少しづつ(1回10~20mlくらい)繰り返して与えるようにしましょう。イオン飲料水など、少し塩分が入っているものが望ましいですが、基本何でも構いません。母乳やミルクは理想的です。ただ、炭酸は止めときましょう。吐いちゃいます。
診断のために鼻の奥の粘膜を綿棒で拭って検査しますが、時間経過で検出率が変わります。発熱後12時間で8割、24時間で約9割が陽性になりますが、6時間以内では5割以下しか検出できません。とても痛い検査です。大人でも嫌がります。採血を我慢できる子でも泣いちゃうことがあります。1回の検査できちんと診断をするためにも発熱12時間以上経ってからの検査をお勧めします。「熱はないけど保育園で検査するように言われて」希望される方もいます。保育士さん達は園内で流行しないように必死で頑張っています。その思いは良く分かるのですが、検査の苦痛も考えてあげる必要もあります。夜間に高熱があった場合はともかく、全く熱がない・上がってすぐの検査はお子さんが可哀想なのでお勧めしません。一部のマスコミが「熱のないインフルエンザがいる」と報道しましたが、それは1昨年の高熱にならないB型の流行期に、免疫力の強い大人の発症早期が微熱だったことから言われたもの。お子さんのA型はしっかり上がります。また、ご家族にインフルエンザの方が居る場合は既に濃厚に接触しており、強い感染力から、それだけでインフルエンザを考える必要があります。私たちが重視するのは臨床症状と接触歴であり検査は参考に過ぎません。検査で偽陰性に出てしまうこともあるので、痛い検査抜きで診断することもあります。
内服/吸入用の抗ウイルス薬は4種類あります。1回の内服や吸入で済むものもありますが、お子さんの場合は1回失敗すると次がありません。例え病院を変えても、もう一度処方する場合には保険がきかなくなって全額自費になってしまいます。効果に大きな違いはないので、学童前半なら5日間使用する方をお勧めします。もちろんお薬を使わなくても安静と水分補給で治りますよ。抗生剤も不要です。
インフルエンザの注意はあくまで合併症です。発症は稀ですが、下記の症状に最も注意してください。
すぐに救急病院を受診すべき症状(緊急性が高いので直接救急病院受診をお勧めします)
*けいれん発作(目の焦点が合わず、全身を強く突っ張る)
*呼吸困難(ぜーぜーして喉元が息を吸うたびに大きく凹む。唇が紫色)
*意識障害(異常行動や訳の分からないうわ言が2時間以上続く)
*全身状態不良(唇が青くなって呼びかけても反応が鈍い。泣き方が異常に弱い)
熱性けいれんはインフルエンザ(特にA型H3N2)では起こしやすく、時に年長でも発症することがあります。5分以内の短いものは危険ではありませんが、脳症との鑑別のためにその後の意識回復程度を注意して観察する必要があるので、遠慮せず受診しましょう。詳しくは2017年12月「熱性けいれんが起きたらどうしよう」をご参照ください。
ワクチンでインフルエンザの発症を防ぐことは難しいですが、重い合併症を防ぐ効果が期待できます。経験的にも私が診てきた重症合併症の方にはワクチン接種歴のある方は殆どいませんでした。
もう一度受診を考慮すべき症状
*6日以上発熱が続く→細菌性感染症併発疑い
*ふくらはぎを強く痛がり歩けない。→ウイルス性筋炎疑い
大事なことは予防すること。ワクチンで重症化は防げても発症まで防げないことがあります。鼻水や痰などの飛沫物の中にウイルスがたくさんいます。飛び散った飛沫物を触った手で無意識に鼻や目をこするとうつります。患者さんはマスクをして痰をまき散らさないようにし、介護した方はよく手を洗いましょう。空気中に漂い続けることはありませんが、湿度が低いと10時間以上ウイルスが生存します。充分に加湿をしましょう。特にドアノブなど良く触る場所は小まめなアルコール消毒が必要です。そして自分の免疫力を高めることも大事です。充分な睡眠は最も免疫力を高めますよ。