クリニック通信
2019年12月15日カサカサッ!痒いっ!
こんばんは。12月に入ったのに、暖かいんだか寒いんだか微妙な天候ですね。
昨年も早かったインフルエンザの流行が、もっと早くなってしまいました。毎年流行るマイコプラズマやRS、ノロに加えて、夏風邪のはずのアデノまで流行っています。三大怪獣どころではありません。怪獣総進撃です。とにかく手洗いを徹底し、加湿器を枕元で使い、充分な睡眠で免疫力を強化しましょう。
健兎はベランダのプランターにせっかく植えたビオラの花を食べ尽くし、換毛期に入ったので、毛を撒き散らしながらリビングを走り回っています。フワフワと浮いた細かい毛が鼻から耳から脳に入ったのか、普段より30人増えた年末の診療のためなのか、今日は横浜でアレルギー学会ですが、頭がボワンボワンしています。
さて、冬の問題のひとつに乾燥肌があります。お子さんはボリンボリン足やらお腹やら掻いてませんか?大人の私達も例外ではありません。私も掻いてます。子供の薄い皮膚は乾燥にはとても弱いもの。カサカサ肌を顕微鏡で観察すると、日照りで干上がった沼地のように、ひび割れて、めくれ上がっています。伸びた神経が剥き出しになり、刺激に敏感になって痒みを生じます。バリアも壊れているので、炎症物質もアレルギー物質も入りたい放題です。暖房は更に湿度を下げ、暑さは痒さに直結します。眠っている間は理性の制御がなくなり、血が出るくらい派手に掻いてしまいます。痒みで眠れないと、睡眠不足から免疫力も低下するので、風邪だってひきやすくなります。保湿はこの時期、健康維持のためにもとても大事です。生まれてすぐの赤ちゃんからの早期のスキンケアはアレルギー体質の予防にも有効です。
痒みが強い場合は炎症と痒みを抑えるステロイド軟膏が必要ですが、保湿をきちんとしないと一時しのぎですぐにぶり返します。その後も保湿剤を続けることが大切です。保湿剤は何でも構いません。病院の処方薬である必要もありません。市販のスキンケア用品で充分です。医薬品に勝るとも劣らない市販品も少なくありません。ワセリンは荒れた皮膚の保護と乾燥防止両面に有効です。保湿剤の多くは皮膚に染み込んで中で水分を保持するもの。ワセリンは皮膚の上に保護膜を作って水分の蒸発を防ぐもの。作用は違っても目的は一緒です。涎かぶれもしやすい口の周りやホッペタならワセリンがおすすめです。
何を塗るかより、どう塗るかが大事です。人差し指の先から第一関節まで、チューブからベロンと軟膏を出してみましょう。この量0.5gが大人の掌二枚分の広さをカバーします。ローションなら手のひらに1円玉大くらい。塗りやすいと薄く塗り広げ過ぎてしまい、効き目が落ちてしまいます。ちょっとベトベトで、ティッシュが貼り付いて落ちないくらいが丁度良いです。シワに沿ってサッサッと軽く塗りましよう。ゴシゴシとよ~く擦り込むと、擦る刺激が痒みを誘発し、荒れた皮膚は凸凹しているので、軟膏は凹に溜まって凸には残らず、結局充分な効果が発揮出来ません。長く続けるには手早く大雑把くらいがいいんです。
塗った軟膏はそのうちとれてきます。1日2回以上塗りましよう。お風呂は42℃以上は痒みを誘発するので38-40℃くらいがお勧めです。スキンケアはスキンシップです。お風呂上がりに話しかけながら塗って上げればお子さんは肌も心もしっとりします。
矛盾するお話もしなければなりません。風邪の受診で診察が終わった後、「ついでに保湿剤をいっぱい下さい」とお願いされることがあります。保湿は必要ですが、ちょっと複雑な気持ちになることがあります。病院の処方はあくまで病気の治療のためであり、軟膏は皮膚の状態により適切な量を処方しなければなりません。明らかに乾燥して引っ掻き傷だらけならもちろんたっぷり処方出来ますし、むしろこちらから勧めます。アトピー性皮膚炎で定期的に受診されている方にも予防は重要です。ただ、初診でツルツルの健康な肌の方にいっぱい処方すると病名がつけられなくなってしまいます。カルテにウソは書けません。いっぱい出したくても出しにくいのです。
保湿剤が美容目的で大量に処方されていたことが報道されて問題になりました。買うより安いからと言う理由の処方が、医療費を圧迫していると指摘する報道もありました。病院の処方は全て厚労省で適切なものか常に監査されています。不適切な処方は差し戻されて、理由が不十分なら保健診療と認めてもらえません。別な病院や薬局に行っても個人の処方履歴は一括して記録されています。不自然に多量であったり頻回な処方が大量に出回ると、保健監査が厳しくなって、アトピー性皮膚炎で本当に困っている方に充分な量の処方が出来なくなってしまうかもしれないと危惧しています。杞憂かもしれませんが、それが複雑な気持ちになってしまう理由です。
こどもにとって保湿はとてもとても大事です。特に赤ちゃんにはアレルギー疾患の予防としても大切です。乾燥肌になったら、まず市販の保湿剤で開始し、痒い湿疹が出てしまうなら、病院で湿疹の軟膏も保湿剤もいっぱい貰って充分にケアをしましょう。そして、良くなって保湿剤だけで済むようになったら、その維持は市販の保湿剤やワセリンの使用も考えてみてくださいね。