クリニック通信

2022年9月10日赤ちゃんには注意、RSウイルス

こんにちは。今日は久しぶりの晴れ。まだまだ暑いですね。でも、ヒグラシがいつの間にか鳴かなくなって、ツクツクホーシが頑張っています。夜の虫たちはジージーからリリリ、リリリ、、に変わりました。やっぱり秋なんですね。今年の十五夜お月さんは9月10日。今はお月さまに住んでいるウサと健兎は見つかるかな。

ウサ 健兎

秋になって統計上はコロナも減りつつありますが、小児科の外来は相変わらず多くの患者さんで溢れています。新しい感染症が流行りだしたからです。その名もRSウイルス。正式名称はRespiratory syncytial virusですが、舌を噛んでしまうので略称で呼ばれています。あまり聞きなれない名前かもしれませんが、小児科医にとっては悪名高いウイルスです。新しい感染症ではありません。昔から居るウイルスです。以前は冬に流行していたのですが、近年は夏から秋にかけて流行るようになりました。今一つ知名度が低い理由はその流行が赤ちゃんに留まるからです。

RSウイルスは2歳までに殆どの方が罹ります。症状は多量の鼻水と強い咳、時に発熱。大人や保育園年長さんのような大きい子にとってはただの風邪症状で済みますが、小さなお子さんでは気管支炎をおこしやすくなります。咳が強くてしつこくて、熱も4日以上長引くことがあります。ウイルスが消えた後も気道が敏感になって、咳が長引きやすくなることもあります(感染後遷延性咳嗽)。喘息患児では発作を引き起こしやすくなり、RS感染そのものが喘息発症の一因になるとも言われています。

1歳を超えてくると気管支も比較的丈夫になってくるので、症状は強いけれど危険になることは少なくなります。問題なのは6か月未満の赤ちゃんです。気管支が細くて痰で詰まりやすい上に、呼吸する筋肉も弱いので、時に重症化することがあります。急性細気管支炎と言って、咳をしていない時でも息を吐くたびに胸からヒーヒーしたハイピッチの音が聞こえ(低いゴロゴロは喉元の鼻水/痰の音だから大丈夫)、息を吸うたびに喉元が凹んで胸に肋骨の形が浮き上がり、お腹はぺこぺこして肩で苦しそうに息をします。唇は体内の酸素濃度を表すので、唇の色が紫色に変わる場合は要注意。夜でもすぐに救急病院を受診する必要があります。レントゲンを撮る場合もありますが、肺炎があるかどうかは重要ではありません。年齢と客観的な呼吸困難の強さが入院適応のポイントです。

治療は鼻水や痰を柔らかくする薬や気管支を広げる薬を用いますが、特効薬はなく対症療法です。加湿した空気を吸わせて鼻水や痰を柔らかくし、鼻水を吸うことが治療の中心です。水分は1口2口づつで良いので小まめに取らせた方が痰が柔らかくなって吐き出しやすくなります。ウイルスに抗生剤は利きませんが、発熱が長引いて血液検査上細菌感染の合併が疑われた場合には使用することもあります。

通常は自然経過で5日以内に熱は下がり、咳も少しづつ軽くなっていきます。感染力がとても強いので発症後7日以上は自宅安静を保ってください。咳で夜間起きることもなくなれば登園が可能になります。

RSウイルスは迅速検査で診断出来ますが、問題が一つあります。外来では1歳未満か、早産や重い病気のためにパリビズマブ(シナジス)と言う注射を接種し続けている方にしか保険診療が適応されないという点です。自費診療では数千円の費用がかかってしまいます。そのため、1歳以上には検査をしない(出来ない)医療機関もあります。当院も含めその費用をクリニックが肩代わりしているところもありますが、医師が必要と思った方だけに限られます。症状も軽いのに「ちょっと心配だから念のため」「保育園で検査してもらうように言われたから」と言う理由で多くの方が検査を希望されると、経営が破綻してしまうので、患者さんに自費診療費用をお支払いして頂かざるを得なくなってしまいます。その点はご理解とご協力をお願い致します。

これだけ問題のあるウイルスなのでワクチン開発も行われていますが、なかなか思うように進んでいないのが現状です。やはり必要なのはコロナ同様の感染対策です。飛沫感染で鼻水や痰にウイルスがたくさん含まれています。小さなお子さんの居るご家庭では、外から持ち込まないように帰宅毎にきちんと手洗いを徹底すること、感冒症状のあるお兄ちゃんお姉ちゃんを赤ちゃんに近づけないこと、特に小さな赤ちゃんは流行シーズンに人ごみに連れて行かないことが大事ですよ。

それにしても第6波から始まり小児科クリニックの医療は逼迫しっぱなしです。お盆診療の時はその忙しさに死にそうになりましたが、子どもたちからの絵やお手紙にまた助けられました。みんな本当にありがとねえ。RSの次はインフルエンザワクチン、そしてインフルエンザの流行と、まだまだ忙しい日々が続きますが、何とか頑張ります。

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