クリニック通信

2023年5月21日掻いたら倍返し

こんにちは。今日は曇りがちですが、暑くなりましたね。ビオラも還暦を迎え、そろそろ引退したいそうです。君たちもか。先日、ついに私も還暦を迎えてしまいました。気は心。誕生日の朝から重力が増し、膝がきしみ、立ちあがるのに「よっこらしょ」が必要になりました。床屋さんで「髪の毛染めますか?」と聞かれました。「年相応に」と言おうとしたのですが、出てきた言葉は「いつもと同じに」でした。まだ観念できていません。会計はシニア料金にしてくれました。翌日、診察予定でないのに常連のお子さんがわざわざ「還暦のお祝い」とお手紙を持ってきてくれました。みゆちゃんありがと~。じいじ先生も悪くありません。スタッフからは「赤いちゃんちゃんこTシャツ」をプレゼントされ、診療中に着るよう命じられました。とても恥ずかしいのですが、多くの顔なじみの患者さんからお祝いの言葉を頂きました。有難うございます。元々変な先生がいよいよ怪しくなったと思われるかもしれませんが許してください。5月下旬までが見頃です。

また、前置きが長くなってしまいましたが、今日は湿疹のお話です。暑くなると荒れた肌が痒くなってきます。手の届きやすい首回りや背中の上、前腕下腿、関節裏、お尻や下着のゴムで圧迫される腰もひっかき傷だらけになります。

掻いた瞬間その皮膚のバリアは壊れ、炎症成分が一気に放出されます。皮膚はボツボツして熱を持ち、痒みは倍増して更に掻いてしまう悪循環の結果、どんどんザラザラして硬くなっていきます。そうなると治りにくくなり、寝巻の生地が擦れる程度の刺激でも痒くなってしまいます。夜は眠れなくなり、寝不足で集中力が低下し、そのストレスが更に掻把行動を助長します。

掻きさえしなければ炎症も沈静化して自己修復も期待できますが、痒みほど我慢できないものはありません。特に夜が最も痒くて掻きやすい時間帯です。日中はまだ他のことに気を取られて掻くことが減りますが、就寝後は意識が痒みに集中してしまいます。布団の中で温まるとより痒くなり、眠いと理性が低下して、掻く行為を自制できなくなります。ゆったりした寝間着は手を突っ込んで搔き放題です。

基本は十分量の抗炎症外用薬です。ステロイド外用薬には炎症と痒みを抑える力があります。強さには4ランクありますが、こどもの場合は殆どの方が一番弱いクラスか下から2番目で落ち着きます。「塗っても治まらない。すぐぶり返す」については、どの専門家に意見を聞いても塗り方の問題と答えます。副作用を気にしすぎて薄く塗って、少し良くなったからとすぐやめてしまうとぶり返しやすくなります。見た目に治まったように見えても皮膚の炎症が残っているからです。ステロイドはSNSなどで誤った伝え方をされて副作用が怖いと思われがちですが、それは内服や注射などの全身投与によるもので、通常に使用する程度の外用薬だけで全身に副作用を起こすことはありません。一番強いランクを月単位で長期間塗ると皮膚が薄くなって赤くなることが報告されていますが、中止すると元に戻ります。一方、搔き壊して硬くなった(苔癬化)肌は黒ずんで治りにくくなります。充分な量と期間を塗って、皮膚の状態を見ながらゆっくり減らしていく必要があります。唯一ステロイドを続けにくいのが目の周りですが、ステロイド以外の抗炎症外用薬も開発されました(プロトピック、コレクチム、モイゼルト)。炎症を抑える力は弱く、効いてくるのに2~4週間ほどかかりますが、ステロイドの副作用を気にせず長期間使え、長く使うほど効果が上がります。最近は抗炎症効果を持つ内服薬や注射薬も開発されてきました(リンボック・ミチーガ・デュピクセントなど)。ただ、内服・注射薬は中学生以上でかつ外用薬でコントロールできない重症例に限られるので、きちんとした管理が必要です。専門性の高い皮膚科や大きな病院のアレルギー科の受診をお勧めします。

外用薬の使い方は、1日2回、朝とお風呂上りに塗ります。抗炎症外用薬のチューブからニュルンと出した、人差し指第一関節分の長さ(1FTU)が手のひら2枚分の皮膚に塗る量です。塗った後の皮膚がテカテカ光ってティッシュが貼りつく位が調度良いと思ってください。良くなったように見えても1週間以上は続けましょう。痒みも赤みもざらつきもないことを確認してから塗る頻度を1日おき→3日おき→とゆっくり減らしていきます。保湿剤だけは季節に関わらずに毎日続けてください。治りにくい方は前述した非ステロイド系抗炎症外用薬に移行することも有効な方法です。ぶり返しやすいよう場合は3日おきで留まってしばらく続けましょう。この塗り方はプロアクティブ療法と言って、再発が少ない分ぶり返してから塗る(リアクティブ療法)より結果的に塗る量が少なく、長期間続けても副作用のでないことが証明されています。詳しい塗り方については2019年12月ブログ「カサカサッ!痒いっ!」もご参照ください。大事なことは定期的に受診することです。病院では皮膚の状態を前回と比べながら治療方針を適宜変えていきます。外用薬だけいっぱい貰って長い間受診しないのでは決して良くなりません。皮膚に細菌やカビの感染があった場合は治療を中断する必要もあります。少なくとも急性期は1~2週間に1回、落ち着いて来ても2~4週間に1回の受診を心がけてください。「風邪のついでに」処方もお勧めしません。次の診察のために時間がなくてきちんとした指導が出来なくなるし、風邪の方に気が逸れて説明を忘れてしまいます。病院を転々としたり、家族で外用薬を使い回すと治療効果を評価出来なくなります。

日常生活では夜の搔破行動を抑えることが大事です。暑いと痒い。お風呂の温度は39℃前後が望ましく、室温は23℃前後だと過ごしやすくなります。エアコンの風が直接当たると冷えすぎてしまうので、風の向きを変えて、薄い布団をかけて調整してみてください。保冷剤をタオルで巻いて痒い場所にあてると少し楽になります。「擦る」は「掻く」と同じ。体を洗う時は目の粗いナイロンタオルでゴシゴシ擦らないように。界面活性効果を利用して、石鹸の泡を優しく塗る程度で充分です。外用剤を塗る時も強く擦り込むと痒くなります。両掌に広げて患部に優しくスッとつける程度で充分です。服や寝巻の素材も大事。何回も洗っているうちに毛羽立っていることもあります。刺激の少ないものを選んでください。ストレスも掻把行動に繋がります。家族仲良くゆったりした環境も必要です。

実は私もアトピッ子です。今年から特にひどくなりました。「老人性角掻痒症」?いやいや、、う~む。夜中に手足や背中をボ~リボ~リ掻いて眠れない夜を過ごしていました。正直、朝晩全身に抗炎症外用薬を塗って、更に保湿剤まで塗るのはとても面倒くさいのですが、やらなければもっと痒くなっていくでしょう。重症のアトピー性皮膚炎に入院して行う「WETWRAP法」と言うものがあります。抗炎症外用薬をたっぷり塗った上から皮膚保護効果の高い(べっとりして取れにくい)亜鉛華軟膏を厚く塗った布でぐるぐる巻きにする方法です。有効性が高い反面大変手間のかかる方法です。ミイラ状態なので蒸れて暑くなるのも難点です。「チュビファースト」と言う、低刺激性で伸縮性の高い被覆布が市販されています。チューブ状なのでサポーターのように腕や足・体幹に被せられ、手袋型もあります。外用薬を塗った肌に水かお湯で濡らしたものを被せて、更に上からもう一枚乾いたものを被せることで簡易の「WETWRAP法」を行うことが出来ます。利点は濡れた布からの気化熱で冷却効果があり、伸縮性が高いので圧迫感も少なく、布が擦れないために痒みが誘発されません。密着して被覆しているため掻把を防ぐことも出来ます。試しに購入して装着したところ掻かずに眠ることが出来ました。難点は装着に手間がかかること、装着直後は冷却効果が強くて寒くなる一方、布が乾くと暑くなることです。見た目もミイラ男になります。だから、最初は手首だけとか小範囲からの使用をお勧めします。

こじれた湿疹の治療には根気がいります。でも、考えてみてください。軟膏を塗る時間は大切なスキンシップの時間でもあります。こどもは大きくなると親を避け始めます。実は我が子の肌に触れることの出来る時間なんて本当に短いものなのです。大変でも貴重な時間と思って、恥ずかしがる大きい子には「あんた一人じゃ背中に塗れないでしょ」と言って塗ってあげて下さいね。

 

 

 

記事検索

カテゴリー一覧

年別一覧

ご予約方法はこちら

クリニック通信

リンク

診療日カレンダー