クリニック通信

2025年4月14日間に合わなかったお花見

こんにちは。すっかり暖かくなりましたね。スノードロップの葉っぱに邪魔されたビオラたちが日照権を訴えて大騒ぎしています。桜は既に葉桜に代わってしまいました。

家の近くに小さな公園があります。ブランコが一つ、鉄棒と滑り台、そして久しく使われなくなった子ども用の野球グラウンド。その公園を桜の木が囲んでいます。殆ど人が来ないので桜の咲く時期でも独り占めできる穴場です。毎年この時期に両親を花見に連れて行っていました。父は93歳、母は91歳。母は足が悪くなりましたが、杖を使って短い距離は歩けました。今年も花見に連れて行こう。まだ寒いので公園は三分咲き。もう1週間もしたら見頃だろうからその頃に行こうか。直前になって急に母が動けなくなりました。食事も取れなくなり、緊急入所しました。歳が歳だけにいつかはこういう日が来ることは予想していました。でも実際に来るとうろたえます。入所した2日後、休診日に父と会いに行きました。急に独り見知らぬ施設に置き去りにされた母は表情を失い、終始無言でした。車いすに乗せて施設の周りを散歩しました。数本の桜はあったものの見上げようとはしません。「早く良くなって家に戻ろうね」息子の私が言います。「この年齢で寝たきりになったら回復は難しいな」医師の私が意地悪そうに背後から囁きます。帰ってから1人で公園に行ってみました。桜の花が満開。これを見せたかった、、。

その日の夜、数年ぶりに夢の中に母が出てきました。添い寝をしている夢。触れた母の右肘の暖かさが何だかリアルでした。週末もう一度面会に行きました。スタッフの優しさに触れて環境に慣れて、食事もとれるようになった母は笑顔で迎えてくれました。もう一度心から言いました。「早く良くなって家に戻ろうね」。それと、ちょっと照れくさい話。母の笑顔に会って父が母に「愛してる」と伝えていたそうです。私はその場にいませんでしたが、電話した姉に父がつい口走ってしまったとのこと。子どもの頃から一度も聞いたことのなかった言葉。余程、母のいなくなった部屋が寂しく、母の笑顔が嬉しかったのでしょう。そんな父をちょっと誇らしく思います。

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