クリニック通信

2014年9月17日風邪薬はいつまで飲むの?

こんにちは。残暑は何処に行ったのでしょうか?曇りがちで涼しい日のまま、花壇のカリブラコアはやる気を失って花を咲かせません。

秋の訪れが早いためかライノウイルスを初めとした咳、鼻汁の風邪が流行してきました。秋の風邪はしつこいのが特徴で、1週間以上咳・鼻が続き、小さいお子さん程長引きやすい傾向にあります。また、乳幼児は年平均7-10回くらい風邪をひくと言われています。特に集団生活に入ると、互いにうつし合うためにその頻度は倍増します。通園していなくても、兄弟や親御さんからもらったり、外出先でもらうこともよくあります。ばい菌がいなくなっても、気道の炎症はしばらく残るために症状は続き、その間は気道粘膜のバリアが弱いために治る前に次の風邪をもらってしまいます。そのため、いつまで経っても咳鼻が止まらない方も少なくありません。さて、その間果たして風邪薬を飲み続ける必要があるでしょうか?

喘息などの慢性的な病気の予防薬は症状が落ち着いていても続ける必要があります。特に9-11月は1年で最も喘息発作を起こしやすく入院率の高い時期で、入院する方の多くは「普段調子が良かったので予防薬を飲んでいなかった」方です。秋は気候・ダニの増加などで気道が過敏になり、そこに風邪をひくことで発作が強くなります(特にライノウイルス)。但し、咳が長いから喘息とは言えません。夜中から明け方に咳が増えて、肺からヒューヒューした音が聞こえて苦しがる(多くは喉元が息をする度にペコペコ凹んでいます)ことを何度も繰り返す時に疑います。大人は2か月以上咳が続く時には「咳性喘息」の可能性も出てきますが、学童期前のお子さんでは決して多くありません。

抗生剤は細菌感染の場合はぶり返すこともあるのでしっかり飲み切る必要があります。但し、本当に細菌感染かどうかはなかなか分からず、「念のため」出されることも少なくありません。抗生剤は悪い細菌だけでなく、体に良い細菌も一緒に退治してしまいます。その後に復活しやすいのは、むしろ逞しい悪い細菌の方です。無論、ウイルスには全く効きませんので、風邪の原因の殆どがウイルスであることを考えると風邪をひいたからとすぐに抗生剤を飲むのは考え物です。多くの小児科医は症状が強くない限り、最初は抗生剤を処方しない傾向にあります。

風邪薬はあくまで対症療法です。根本的治療ではなく、効果も弱いので病気の進行の予防も出来ません。もともと、咳も鼻水も体の「防衛反応」のひとつで、鼻水や痰にばい菌を封じ込めて咳で体外に出すために必要な反応です。風邪薬の目的は「辛い症状をほんの少しだけ楽にすること」です。本人が辛くないのなら飲み続ける必要はないとも言えます。今年の春に外来小児科学会で「風邪」をテーマにシンポジウムが開かれましたが、参加者の多くは軽症な方への風邪薬の使用と効果に疑問を感じていました。一方、お医者さんは真面目であればある程、「お母さんが心配しているのなら何とかしてあげたい」と思ってしまいます。その結果、再診するたびに、咳が止まらないと訴えるたびに、処方の内容が増えていきます。正直、私自身もそう言う傾向があります。反省すべき点です。

いわゆる風邪=上気道感染症の原因は80%以上がウイルスです。ウイルスに対する根本的治療薬はインフルエンザとヘルペスウイルス以外にはありません。しかし、自分のもっている免疫の力で自然に治ります。一方、10数%を占める細菌は抗生剤が治療薬となりますが、大半は免疫の力だけでも治ります。免疫の力を高めることが一番の治療ですが、それは薬で補うものではなく、充分な睡眠と安静を保ち、適度な栄養と水分補給を行うことが大事です。また、お子さんの咳は鼻水や痰が喉の奥に垂れ込むことにより出やすくなります。入浴は気道が加湿されて鼻や痰が切れやすくなるので、お風呂の後に鼻水を吸ったり、片方ずつ鼻をかませたりすることはむしろお薬よりも効果があるように思えます。

どんなにお薬を飲み続けても生活環境を正し、次の風邪をもらう機会を減らさなければ治りにくいものです。風邪をひいたらまず生活パターンを見直し、病院の受診は「辛そうにしているか、いつもと違う変な症状を伴っている時」に考えましょう(2013年10月のブログ「咳の続くお子さんへ」が少しは参考になるかも)。熱もなく、夜中も良く眠れてヒーヒーせず、普段通りの元気があるなら、少し様子を見ても良いかもしれませんね。

 

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