クリニック通信
2015年1月10日こどもの点滴は大変
こんにちは。正月以来冷たい風は吹くけれど晴れた日が続きますね。冬休みの間はインフルエンザのうつし合いが減るため、年明けの外来は怒涛の年末よりも少し落ち着いた感じです。ただ、新学期とともにまた流行が再燃します。インフルエンザは乾燥が大好き。過湿と手洗いを徹底してうつらないように気を付けましょう。
おそらく、全ての医師が最も敬遠するのは小さなお子さんの点滴でしょう。大人と違って血管が細くて厚い皮下脂肪に覆われているため、血管の隆起が見えません。最近は血管を透かして見る特殊なライトもありますが深さが分かりません。触った感触を頼りに血管を探すのですが、とても分かりにくいものです。お話をしても当然嫌がって大暴れしますが、その力は1歳前のお子さんでさえ1人では抑えきれないほどです。バスタオルにくるんで力いっぱい抑えざるを得ませんが、それでも針の入る絶妙なタイミングで腕を引き抜かれてしまいます。揺れる車内で針に糸を通すようなもので、非常に高い集中力を要し、熟練した医師でも1回では血管に入らないことが多々あります。なかなか入らない時は、親御さんとお子さんの顔が頭の中で交錯して焦って余計失敗し、とても落ち込みます。
前職の救急病院では毎日10人を超える点滴をしていたので、多少上手くなった気がしていい気になっていました。しかし、40歳の後半を迎えたある日突然壁が立ちはだかります。針の先が少し見えずらくなったのです。この少しが成功率には大きく影響します。最初はハードな勤務で目が疲れたのかなと思ったのですが、ふと、メガネをはずしたところよ~く見えるようになりました。遠視、所謂老眼と言うやつです。「これがそうかぁ、、突然やって来るものなんだなぁ、、」とちょっと哀しくなりました。それからは点滴の際には眼鏡を外すようになりました。真剣な顔で眼鏡をかなぐり捨てる姿に「本気モードっぽくてカッコいい」などとおだててくれる看護師さんもいましたが、こちらは必死の思いでした。
点滴をする理由は重症脱水や血圧低下に対する緊急措置、内服では補い切れない薬の投与や即効性を期待する時などです。時々食欲がないことを理由に点滴を希望される方もいますが、数時間かけて500ml点滴をしても砂糖25g分程度であり、残念ながら栄養の補給にはなりません。その代償にお子さんには強い恐怖と痛みを強いることになります。点滴や検査など、こどもに針を刺す行為は本当に必要な時に限るべきです。
最近は「経口補水療法」が推奨されるようになりました。少量の糖分と塩分を含んだ水(イオン飲料水:大塚製薬のOS-1が適しています)を10ml前後(小さじ2-3杯。スポイトで口の中に流してあげるのも方法)づつ10-15分毎に飲ませる方法です。発熱や胃腸炎の時は胃腸の動きが鈍っているため、一度に多く摂らせると吐いてしまうことがありますが、少量ずつ頻回に摂らせると少しづつ吸収されていき、点滴と同等な効果で脱水を防ぐことが出来ます。病気が何であれ水分補給は有効であり、体内に水分が取り込まれると楽になります。手間はかかりますが、お子さんには優しい治療です。風邪を治すのは医師や薬の力ではなく、お子さんの抵抗力を高めるための体調管理に努める親御さんの介護の力です。頑張れば頑張ったかいがありますよ。
一方、医師が一番したくないはずの点滴を勧める時はそれだけ必要であるということです。その場合は大変だけどお子さんには頑張ってもらい、終わった後でいっぱい褒めてあげましょうね。